◎骨のバイオメカニクスに関する研究(荷重支持構造物の自発的創成)



骨の内部には細い柱のような構造が観察されます.これを骨梁とよびますが,この配向方向は先端に等分布荷重を受ける梁の内部の主応力方向に一致していることが多く観察されることから,骨は最小の材料で最大の強度を持つようにできているのではないかと言うことが古くから指摘されています(図1‐1).また,骨は常に力学環境に適応するように内部構造や外部形状を動的に変化させているとも考えられています.従って,機械工学的には骨は,自らに加わる力学刺激を感知して,その構造を常に最適に保っている動的最適構造物であると考えることができます.本研究では幼弱な骨を様々な力学環境下で培養することで人工的にその環境に適合した最適な構造を誘導することを目的としています.



大腿骨内の骨梁図(左)と先端に等分布荷重を受けたときの最適構造を計算した結果(右)


1)繰返圧縮刺激負荷による培養骨組織の力学特性・内部構造変化に関する研究

2)力学刺激負荷培養下に置かれた幼若骨組織のリアルタイム観察

3)骨芽細胞様細胞MC3T3-E1の石灰化促進に関する研究





1)繰返圧縮刺激負荷による培養骨組織の力学特性・内部構造変化に関する研究

【実験装置】

当研究室では,主にヒヨコの脛骨を試料として,培養環境を保ちながらリニアアクチュエータで変位を骨試料に与え,ロードセルによって荷重を測定することで繰返圧縮刺激を負荷する装置(図1‐2)を独自に開発しました.これを用いて繰返圧縮刺激が培養骨組織の力学特性や内部構造の変化に与える影響を詳しく調査しています.



   図1‐1.繰返圧縮刺激負荷装置(中垣,2005)

【結果と考察】

図1‐2は,新鮮な骨試料と,あらかじめ組織内部の細胞を死滅させた骨試料を用いて,繰返圧縮負荷したときの力学特性の変化を比較した結果です.新鮮な静置培養群(SC),細胞を死滅させた組織を静置培養した群(dSC),細胞を死滅させた組織に繰り返し圧縮を負荷した群(dCCC)は培養前後で変化は見られませんが,新鮮な組織に繰り返し圧縮を負荷した群(CCC)ではで有意差に硬くなることが判分かりました. 繰返圧縮を加えて培養した骨で観察された硬化は組織が押し潰されることによる受動的な硬化ではなく,細胞の積極的な応答による硬化であることが明らかになりました.今後は,この硬化が何によって生じるのか,明らかにしていく予定です.



   図1‐2.繰返圧縮を負荷して培養した前後での骨組織の力学特性の変化(市川,2006).
CON1,1日齢のヒヨコから摘出長後の骨;  CON3,3日齢のヒヨコから摘出長後の骨
SC,静置培養した骨;  dSC,あらかじめ細胞を死滅させて精緻培養した骨
CCC,繰返圧縮を負荷しながら培養した骨;  dCCC,あらかじめ細胞を死滅させて繰返圧縮を負荷しながら培養した骨
       




2)力学刺激負荷培養下に置かれた幼若骨組織のリアルタイム観察

【研究の背景】

これまでの研究では,力学刺激下にて骨内の構造が実際にどのように変化しているのか,リアルタイムに観察した例はほとんど報告されていません.そこで本研究では,幼若な骨組織に力学刺激を負荷しつつ培養し,組織構造の変化をリアルタイム観察する装置を作製し,力学刺激が骨組織の構造変化に与える影響を石灰化の進行割合や方向,コラーゲン線維の配向方向といった観点から検討しています.


【実験装置】

図2‐1に開発したリアルタイム観察装置を示します.本装置は倒立顕微鏡に設置可能です.ステージヒータとトップヒータで装置内を温め,混合ガスを流入させることで培養環境を作り出しています.骨試料は2枚のステンレス板とバネ蝶番を用いた固定ジグと駆動ジグで把持し,リニアアクチュエータを用いて引張や圧縮などの力学刺激を負荷します.アクチュエータはパーソナルコンピュータにて制御しています. 実際の組織像の代表例を図2‐2に示します.観察される組織像は,透過光観察した石灰化領域 (骨) と未石灰化領域 (軟骨) では透過率が異なるため,石灰化領域は暗く,未石灰化領域は明るく見え,両者を区別することが可能です.



   図2‐1.骨薄片組織に力学刺激を負荷しながら培養し,内部構造をリアルタイム観察をする装置(市川,2007)

【結果と考察】

実際の組織像の代表例を図2‐2に示します.観察される組織像は,透過光観察した石灰化領域 (骨) と未石灰化領域 (軟骨) では透過率が異なるため,石灰化領域は暗く,未石灰化領域は明るく見え,両者を区別することが可能です. 「力学刺激を負荷した組織」は「静置培養した組織」よりも石灰化領域が広範囲に及んでいることが確認できます. これらの画像から石灰化領域の面積変化を解析した結果,力学刺激を負荷した組織の石灰化領域は培養開始から13時間辺りで急激に上昇し,両者には17時間以降に有意な差が見られました.また石灰化の土台となるコラーゲン線維を偏光顕微鏡で観察したところ,その配向方向と石灰化の進行方向には有意な相関が見られました. 以上より引張刺激には石灰化を促進させる効果があること,また石灰化の進行はコラーゲン線維の配向方向に沿って生じることが示唆されます.今後はコラーゲン線維の配向の変化をリアルタイムに観察し,石灰化とコラーゲンの関係性を明らかにし,骨形成のメカニズムを解明していきたいと考えています.



   図2‐2.静置培養時(左)と引張負荷培養時(右)での骨薄片組織リアルタイム観察組織像.暗く見える領域がカルシウムの沈着した石灰化領域,明るく見える領域が軟骨からなる未石灰化領域.
       


3)骨芽細胞様細胞MC3T3-E1の石灰化促進に関する研究

【研究の背景】

骨は負荷された力学的刺激に適応するように内部構造や外部形状を変化させ,「リモデリング」します.  このリモデリングには骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」が関与しています.骨は力学的刺激の影響を受け,石灰化することで形成されますが,詳しい石灰化のメカニズムは不明です. 本研究では特殊な培養液で培養すると骨芽細胞に変化するMC3T3-E1細胞を用い,石灰化過程に及ぼす力学的刺激の影響を調べています.
 このため,MC3T3-E1細胞をシリコーン膜上で培養し,膜を変形させることで細胞に力学刺激を加え,これが石灰化に与える影響を調べます. 石灰化の観察には月単位の観察が必要ですが,現状では短期間で細胞が膜から剥がれてしまい,長期培養は困難です. そこで本研究の第一段階として,シリコーン膜上の骨芽細胞様細胞の長期培養法の確立を試みました.


【研究内容】

シリコーン膜への細胞接着を向上させるためには,親水化処理と細胞外マトリクスのコートがあり, シリコーン膜と細胞外マトリクスの接着を強化するには中間層のコートがあります.これらの処理を組み合わせることで6種類のコーティングをシリコーン膜に施しました. 以下に各コーティングの略称と組み合わせを示します (Fig. 1).



   図3‐1.コーティング方法の概略図

Fig. 2 は30日間の細胞培養におけるシリコーン膜への接着状態を色で示したものです. 各群3個のチャンバで培養を行い,10,15,30日目に細胞を固定・染色し観察を行いました.硫酸による親水化処理は効果が低いためかDay 8 までに細胞がシリコーン膜から剥離しました. 一方,E00群 (プラズマエッチング) とEPC群 (プラズマエッチング + Sulfo SANPAH + タイプTコラーゲン) では26日間細胞の剥離がなく,30日間の培養でも一部の剥離にとどまる良好な細胞接着を示しました. 今後はE00群,EPC群のコートを用いて細胞を接着し,力学刺激負荷実験を行う予定です.



   図3‐2.細胞の培養状況
       





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Biomechanics Laboratory
Nagoya Institute of Technology